3つのターン弧の使い分け
冒頭では、ターン前半からターン後半すべてにおいて、きれいな丸いターン弧を描くようなイメージで図示しているが、実際には次の3つのターン弧を、状況に応じて使い分けた方が、ターンの効率は良くなる。
上図の灰色の部分は、雪面に圧力を加えていない状態、すなわちスキー板が空中に浮いた状態(ジャンピングターンでの脚の伸び上がり抜重、またはベンディングターンでの脚の引き上げ抜重)での板の回旋を示す。赤い部分は、雪面に圧力を加えている状態でのスキー板の回旋(スピードコントロール部分)を示している。BをB1とB2の2つに分けているのは、小回りターンと大回りターンの違いによるものである。B1は、小回りターンをイメージしており、B2は大回りターンをイメージしている。大回りターンのような長いリズムのターンでも、ターン前半での空中にスキー板を浮かした状態での回旋は、小回りターンと同じくらい短い時間で行うからである。
何故このように3つのターン弧を使い分けるかというと、それはターン前半におけるスキー板の回旋のしやすさと関係がある。スキー板は、ターン後半に比べてターン前半の方が回旋しにくい。
第一に、スキー板の回旋力に関すること。
通常滑走している時、エッジングした状態(脚をターン内側に傾けた状態)で、中央部分に真下に向かって押す力が働くと、スキー板は弓のようにたわみ、回旋力が働くようになる。
ターン後半部分では、重力成分の力がスキーヤーに働いているので、その力によってスキー板が真下に向かって押され、スキー板はたわみ、回旋力が働く(さらに遠心力も働いているので、その力も板をたわませ、回旋させる力となる)。
ターン前半部分では、重力方向の力はスキー板に対して逆向きに働くため、スキー板をたわませる力とならない。従ってスキー板がたわみ、回旋力を働かせる力は、遠心力によって左右されることとなる(スキー板にかかる力によって分ける、ターンの3つの分類についてを参照)。
すなわち、スキーヤーに大きな遠心力が働いている場合は、スキー板の回旋力は大きくなり、ターンがしやすくなるが、働いている遠心力が小さいと、スキー板の回旋力も小さくなり、ターンがしにくくなる。
ちなみに遠心力についてであるが、この力は、円運動をしている状態において、スピードが速くなればなるほど、大きくなり、また、ターン弧(回旋半径)が小さくなるほど大きくなる。そう考えると、小回りターンはターン弧が小さいので、遠心力が大きく働き、ターン前半も回旋力が働くように思えるが、実際にはそうはならない。これは、遠心力のもう一つの特徴である、重量の重いものほど遠心力が大きく働き、重量の軽いものには小さく働くためである。実際にスキーヤーの体重の多くは上体にあるため、この部分が円運動をしなければ、大きな遠心力は働かない。ゲレンデで滑っている人を見ればわかるが、大回りのターンでは、体全体が円を描くように移動しているため、この状態でスピードが速くなればなるほど、遠心力は、大きく働くこととなる。小回りターンでは、ひざから下の部分は円運動を行っているが、ひざより上の重量が大きい部分では円運動を行っておらず、ほぼフォールラインを落下していく直線運動に近いものとなっている。これは、スキーヤーの内傾の度合いを見てもすぐわかることである。大回りターンをしているスキーヤーは、小回りターンをしているスキーヤーよりも体がターン内側に大きく傾いている(これは、大回りターンのほうが小回りターンよりも遠心力が大きいということである)。
補足であるが、スキー板が回旋力を持つ場合のターン弧の大きさは、条件の非常に良い場合を除いて(新雪が降ったばかりのゲレンデをピステンで踏み固めたばかりの状況などでは、スキー板が回旋しやすく、とてもうまくなったような気になれる)、通常は、スキー板のサイドカーブに相当する大回りのターン弧になる。従って、それよりもターン弧が小さくなればなるほど、回旋しにくくなり、回旋力を補うために、脚のひねりをより多く加える必要がある。
第二に、スキー板のサイドカーブとターンのしやすさとの関係。
通常のスキー板では、両サイドにサイドカーブという丸い弧を持った形状をしている。従って、インエッジに体重を加え、スキー板の進むがままに素直に乗っていけば、サイドカーブと同じきれいな丸いターン弧を描いて、スキー板はターンする。つまり、サイドカーブを使ったターン(カービングターン)では、ターン前半からターン後半のターン全般においてスキー板は回旋しやすい。
第三に、単位時間における回旋量によるもの。
これは、1秒間でスキー板をどれほど回旋させなければならないかということである。1秒間での回旋量が多ければ多いほど、ターンしにくくなるし、少なければターンはしやすくなる。
もっとわかりやすく言えば、大回りのターンと小回りターンで回旋量が同じだった場合、大回りターンでは、ワンターンの時間が長いため、スキー板をゆっくりと回旋させればよいので、ターンはしやすいが、小回りターンでは、ワンターンの時間が非常に短いため、すばやく板を回旋させる必要があり、そのため、スキー板を回旋させる力もより必要になり、ターンがしにくくなる。これはターン前半に関わらずターン後半も同じで、ターン弧が小さくなればなるほどターンがしにくくなるので、筋力を使って脚のひねりを加えていく必要があるが、ターン後半の場合は、スキー板に回旋力が働いているため、ターン前半よりもその影響は少ない。ターン前半の場合、遠心力が小さければ、板の回旋力が小さくなるので、この状態でターン弧が小さくなると、スキー板は回旋しにくくなる。
第四に、雪質について。
雪面抵抗(摩擦力)の小さな斜面状況ではスキー板の回旋はしやすく、雪面抵抗の大きな斜面状況においては、スキー板は回旋しにくい。
アイスバーンやパウダースノーのようなとても軽い雪の上を滑る場合、雪面抵抗が非常に小さいため、スキー板に回旋力が働いていなくても、スキーヤーが脚のひねりを加えてやれば、簡単にスキー板を回旋させることができる。従ってターン前半でも回旋しやすい。
深雪や悪雪(春の重たい雪)の場合は、雪面抵抗が大きいため、ターン前半は非常に回旋しにくくなる。やはりターン後半も回旋しにくくなるが(だから、深雪や悪雪を滑るのは難しいのであるが)、回旋力は働くので、ターン前半ほどではない。
ターンすることによってスピードがコントロールできるのは、スキー板が回旋する時に雪を押しのけ、その時の抵抗によって減速するからであるが、悪雪の場合は、雪が水分を含んで比重が重くなっているため、雪を押しのけるのにそれだけ大きな力が必要になる。深雪の場合も同様で、表面上の雪は軽いのであるが、スキー板が雪の中に深く潜ると、その回りの雪は、上に乗っている雪の重みで雪の密度が増しているので重く、やはりその雪を押しのけるにはさらに大きな力が必要になる。
以上述べたことを考慮に入れて考察すると、どのような場合に上図のようなターン弧を描けばよいか導き出せる。
カービングターン(高速大回りターン)では、遠心力が大きく働くため、ターン前半にスキー板を回旋させる力も働く。さらにサイドカーブにのっとったターン弧を描き、スキー板の回旋も長いリズムでゆっくりと行われる。従って、ターン前半もスキー板が回旋しやすいので、Aに見られるようなターン前半から後半のターン全般において雪面に圧力を加え、きれいな丸い弧を描いた方が効率がよいと言える。もう一つつけ加えると、カービングターンは、整地で、アイスバーンのような固斜面に適したターンであるので、四番目に述べた雪質についても当てはまる。
カービングターン(緩斜面における浅回り小回りターン)では、遠心力が弱いため、ターン前半のスキー板の回旋力は小さいが、サイドカーブにのっとったターン弧を描くため、Aのようなターン弧を描くことが可能である。また、浅回りなので、ターン前半のスキー板の回旋量も少なく、回旋しやすい。大回りターンと違って回旋力が小さいということと、短いリズムで素早くスキー板を回旋させなければならないので、大回りターンがスキー板のターン特性を利用して、脚のひねりをあまり必要ないのに対し、脚のひねりを積極的に使ってターンをコントロールしなければならないが、ターン全般にわたって回旋しやすいので、Aのようなターン弧を描いた方が、滑りに見栄えがする。
急斜面における小回りターンでは、遠心力の働きが弱いため、ターン前半のスキー板の回旋力が小さい。緩斜面に比べてブレーキングの力を大きくしなければならないので、カービングターンのターン弧に比べて、非常に小さなターン弧となり、またターン弧は深回りとなるので、短い時間で素早くスキー板を回旋させなければならない。よって、ターン前半においてスキー板の回旋がしにくいので、B1のようなターン弧を描いた方が効率がよい(脚のひねりを使ってAのようなターン弧を描くことも可能であるが、前半のスキー板が回旋しにくい状況において、むりやりスキー板を回旋させるような状態になるため、上体が不安定になりやすい。従って、ターン後半にブレーキングを集中した方がより安定的にターンできるので、望ましい)。
ターン後半においては、回旋力は働くが、小さなターン弧を描くには十分でないので、脚のひねりによって回旋力を補足する必要がある。
B1のようにターン後半に丸いターン弧を描く場合、カービングターンよりもターン弧が非常に小さいものとなるため、スキー板をずらすターンとなる。もし、カービングターンのようにずれの少ない、雪面を切るターンを行いたいのであれば、Cようなターン弧になる。
深雪や悪雪における小回りターンでは、前述したように雪が重いため、ターン前半はスキー板を回旋しにくい。よって、B1ようなターン弧を描くことが望ましい。ただし、ターン後半においてもスキー板は回旋しにくいので、回旋力を高めるため、雪面に対する圧力を増やす工夫が必要である(詳しくは、深雪(パウダースノー)におけるターンコントロール、悪雪(春の水分を多く含んだ雪)におけるターンコントロールを参照)
深雪においては、大回りターンは向かない。悪雪において大回りターンを行う場合は、やはりターン前半スキー板が回旋しにくいこともあり、B2のようなターン弧を描いた方がターンしやすい。ただし、高速で大回りの浅いターン弧を描いて滑る場合は、遠心力が働いているので、Aのようなターン弧を描くことが可能である。
Bに関してであるが、図を見る限りではスキー板がフオールラインを向いた所から加重を加え、丸いターン弧を描いているが、これは状況によって変わってくる。要するに、ターン前半に少しだけ空中でスキー板を回旋させ、残りの前半部分から加重を加えて丸い弧を描くようにしても、それだけでターンはしやすくなるし、状況に応じては、フォールラインよりもさらにターン内側まで空中で回旋させ、その後に加重したほうが、よりスキー板の回旋力が働くので、ターンしやすい場合もある。ただしこの場合、空中でのスキー板の回旋を回しすぎないようにしなければならない。スキーのレッスンで、初めてジャンプターンを教える時によく見られることだが、ジャンプしている時に、必要以上にスキー板を回旋してしまい、そのため運動量が多くなってジャンプ時に不安定になり、また、着地した時に深回りのしすぎのために、急ブレーキがかかって、不安定になり、次のターンに入れないような状況の人をよく見かける。
Cは、中、急斜面深回り小回りターンにおける直線的な動きのターンである(緩斜面浅回り小回りターンでも可能)。このターンでは、加重された後のスキー板の動きは、丸いターン弧を描くというより、直線的な動きとなり、この章で述べたきれいな丸いターン弧を描くということには当てはまらない。どちらかといえば少し特殊な滑りかもしれないが、このターンは、スキー板のサイドカーブに沿って深回りターンを行う場合のずれの少ない、雪面を切るターンの滑りになる(固斜面における中、急斜面小回りターンを参照)。
この件に関しては、次の機会に掲載予定の”圧力コントロールを主体としたターンへの移行”の部分でまた詳しく述べたいと思う。
Author : Masahiro Kaida
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