スキー板の特性を使ったターン(カービングターン)及び雪面コンタクトについて
ターンを行うのに必要な2つの要素
円運動を行う物体には、その円の外側へ向かって物体がはじき出されるような遠心力が働いている。従ってターンをしているスキーヤーの上体には、下図のようにターン外側へ倒されようとする遠心力Bが働くので、その遠心力とのバランスを取るために、ターン内側へ体を傾け、遠心力Bと釣り合う力A2を発生させなければならない。
自転車を例に取ってみよう。直進している状態で、ハンドルを動かないように固定したまま体を傾けると、ターンが起こらないため、遠心力は発生しない。従ってそのまま傾いた方に倒れてしまう。
自転車は、曲がりたい方向にハンドルを切ることによって、前輪と後輪の部分に丸い弧が生じ、それによってターンが行われる(実際には自転車は傾いた方に自然にハンドルが切れるようにできているが)。そこで今度は逆に、ハンドルを切ったまま上体を傾けないでいると、ターンによって遠心力だけが発生するので、体はターンの外側へ倒れてしまう。従ってターンを行うためには、体を傾けるのと同時にハンドルを切らなければならない。
これはスキーについても同じことが言える。すなわちターンを行うのに必要な2つの要素は、
- 体をターン方向に傾ける(重心の移動)
- 脚のひねりによってターンを始動する(自転車のハンドル操作に当たる)
の2つの動作を同時に行わなければならない。
スキー板の形状(サイドカーブ、ベント)について
スキー板には図Aのように両サイドにサイドカーブを持っている。これは自転車のタイヤが丸いのと同じで、エッジングした時に板がたわんで、丸い弧を作り、それによってターンをしやすくするためである。すなわち、自転車のハンドルを切った時に前輪と後輪の間にできる丸い弧に相当する。
それともう1つ、エッジングした時にスキー板のサイドカーブとベントによってスキー板が弓のようにたわむと、板は元に戻ろうとするので、その力によってトップとテールに雪面を押さえようとする圧力が発生する。それによってブレーキングの力は強くなる。
エッジングを強くした時のスキーのたわみとねじれについて
固い斜面(アイスバーン等)では、板は雪面に食い込まない。平地でスキー板だけを雪面におくと、スキー板にはベントがあるので、トップとテールが雪面につき、真ん中は浮いた状態になる(図A)。この上にスキーヤーが乗ると、スキーヤーの体重で板はたわみ、板全体が雪面に付くことになる。この時、この板をたわませるのに20kg重の力が必要だったとしよう(図B)。板はバネと同じで元に戻ろうとする力が働くので、真ん中が浮き上がろうとするが、スキー板の中央はスキーヤーの体重で押さえられているため、真ん中は浮くことはできない。よってその元に戻ろうとする力はスキー板のトップとテールに2分され、それぞれ10kg重の圧力で雪面を押さえることとなる(図C)。この力によって、スキー板は直滑降したときでもスキー板が雪面に吸い付くような形となり、安定して滑ることができる。もし使い古しの板で既にベントがないものならば、直滑降した時にトップとテールが押さえられないために、ふらふらして安定しない。
スキー板がフラットな上体からさらに脚を傾けてエッジングを強くしていくと、それに応じてスキー板はさらに丸い弧を描くようにたわみを増し、それに対してスキー板が元に戻ろうとする力も大きくなるので、スキー板のトップ及びテールが雪面を押さえる力はさらに大きくなる(図D)。
それともう1つ、スキー板はトップの面積が一番広いために、雪面からの強い力が働き、トップはたわむだけではなく、ねじれも伴う。当然ねじれれば板は元に戻ろうとするので、その力がさらにトップを押さえる圧力となる(図E)。
すなわち板のトップはたわみとねじれによって雪面を押さえる。これらの力によってスキー板はブレーキングの力が増す。エッジングを強くすればするほど板は大きくたわみ、ねじれるので、雪面を押さえる力も大きくなり、ブレーキングの力も増すことになる。また堅い板ほどたわませるのに力がいるので、その分スキー板の戻ろうとする力も大きくなり、雪面をとらえる圧力も強くなる。逆に柔らかいスキー板は雪面をとらえる圧力が弱い。レーシングスキーが堅いのはその為である。
しかしながら、スキー板のたわみとねじれによる圧力の増加だけでは、スピードをコントロールするにはまだ不十分である。前にも述べたが、スピードコントロールには、圧力コントロールとターンコントロールの2つの要素があり、圧力コントロールで押さえきれないスピードを、ターンコントロールでコントロールすれば、効率の良いターンになることを述べた。
固い氷を扱うもの、例えばアイススケートのスケート靴にしてもかき氷を作る機械にしても、それぞれ鉄の鋭い刃を持っており、それによって氷を削るようになっている。固い斜面をスキーで滑る場合も同じで、脚の傾きを大きくし、スキー板のエッジを鋭く立ててスキー板を回旋させると、雪面を削り取る量が増え、ブレーキングの力が増す。
すなわち、固斜面ではエッジングを強くすることによって、スキー板のたわみとねじれによる雪面への圧力が増すということと、エッジの雪面を削る量が増えるということから、エッジングをなるべく強くすることが効率の良いスピードコントロールを行う上で有効な手段である。
圧雪された柔らかい雪面の場合(新雪をピステンで踏み固めたもの)は、固い雪面の場合と違ってくる。
スキー板のトップとテールは中央に比べて広くなっているので、圧雪された柔らかい雪では、スキー板をエッジングすると図Fのように、トップ部分とテール部分のその広くなった部分が雪の中に埋まり、その部分の雪面抵抗が増す。トップ部分とテール部分ではトップ部分の方が板の面積は大きい。従ってターン後半にスキー板が受ける雪面抵抗の大きさは、トップ部分が一番大きく、次にテール部分、その次に真ん中となるので、スキー板はトップ部分にかかる圧力によって回旋する(正確にはトップ部分の雪面抵抗が一番大きいため、トップ部分の落下するスピードがテール部分よりも遅くなり、その結果回旋する)。その時テール部分の雪に食い込んだ部分が、その雪を排除することによってブレーキングがかかる。ナイターゲレンデの始まりの時間帯では、このような雪面状況が多く、スキー板は回旋しやすいので、とてもターンがしやすい。
春の悪雪の場合は、水を含んで雪が重いため、テール部分の雪が排除されにくくなるので、ターンしにくくなる。
カービングターン
スキー板はエッジングを弱くした状態でターンしようとすると、ずれやすくなる。逆にエッジングを強くすればするほど(脚の傾きを大きくすればするほど)、スキー板はずれにくくなり、サイドカーブに近いターン弧となる。これをカービングターンと言う。板のサイドカーブは半径10数メートルの大きなターン弧を描く(これは各板のサイドカーブの大きさによって違ってくる。最近流行のカービングスキーはサイドカーブを大きくしているため、ターン弧が小さくなり、ターンがしやすくなっている)。従ってカービングターンは非常に大回りなターンになる。
カービングターンはスキーヤーの体重を板に伝え、脚を傾けてエッジングを強くした時に、その板のたわみによって作り出されるカービングで回っていくターンである。よって脚のひねりによるターンコントロールは少なくてすみ、非常にターンしやすい、効率の良いターンとなる。従ってこのターン弧に近いターンの場合は比較的ターンがしやすい、効率の良いターンとなる。
カービングターンのターン弧に近いもの
- パラレルターン大回り
- 浅回りの小回り(緩斜面ウェーデルン)
カービングターンよりもターン弧が小さくなればなるほど、スキー板は回りにくくなり、ターンの効率が悪くなる。よってスキーヤーは自分の足のひねりを積極的に使ってターン弧をコントロールしなければならなくなる。
カービングターンのターン弧よりも小さいもの
- パラレルターン中回り
- 深回りの小回り(急斜面ウェーデルン)
カービングターンはフラットな固い斜面(アイスバーン等)に適したターンである。
Auther : Masahiro Kaida
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