切れるターンでの股関節の動き
エッジング角度を大きくした切れるターンでは、スキー板のサイドカーブを効率よく使う必要があるので、スキー板のインエッジ全体に加重することとなる。従って加重点は、足の裏の親指とかかとを結ぶ線分に(両足加重の場合は、小指とかかとを結ぶ線分にも)加重を加える(場合によっては、かかと加重の場合もありえると思われる)。
切れるターンにおける脚のひねり運動は、次のようなイメージの動きになる。
ずらすターンの場合は脚の傾きも小さく、足の裏の真上に近い所に腰の位置があるが、切れるターンを行う場合は、エッジングを大きくするために、脚の傾きを大きくしなければならないので、腰の位置をターン内側へ大きく移動しなければならない。
まず、図10のAのように、足の裏の真上の位置から離していくように、腰の位置をターン内側へ大きく移動していく。そして、その動きと合わせて、Bのように、くるぶし及びひざをターン内側へ倒しこんでいくように、股関節をひねっていく。
この後の項目に関しては、次の機会に更新の予定です。
ずらすターンの特徴及び切れるターンの特徴
ずらすターンにおける股関節の動きでは、脚のターン内側への傾きは弱く、足の裏が腰の真下に近い所にあるため、滑っている時のバランスが取りやすい。よってこぶ斜面や悪雪、深雪などの不整地に向いている。
しかしながら、外力(重力、及び遠心力等)の働く方向に、スキー板がずれるため、その方向に力が逃げることとなり、外力を利用した加重の増加及び外力を利用したターン切換は行いにくい。従ってスキーヤーはターン切換時に伸身の動作や意識した重心の移動を行ってターンを始動しなければならない。
ずらすターンといってもまったくエッジングが無いわけではない。弱いながらも脚の傾きはあるのでエッジングによるブレーキングが働く。また、斜面でフォールライン方向に対して垂直にスキー板を向けて立った時、例えば30度の傾きの斜面ならば自然に30度のエッジの傾きができるので、ターン後半、フォールライン方向からだんだんとフォールラインに対して垂直方向にスキー板が回旋していくと、だんだんとエッジングが強くなっていき、ブレーキングの力も増していく。
切れるターン(エッジングを強くしたターン)では、強いエッジングによってスキー板がずれにくい。従って、大回りのパラレルターンにおいては遠心力によって雪面にかかる圧力を増加させることができ、また遠心力を利用してターン切換時の重心の移動をスムーズに行うことができる。
小回りターンにおいては、重力によって発生する落下エネルギーをエッジでとらえることによって、雪面にかかる圧力を増やすことができ、またターン切換時にはスキー板の斜め前方への抜けを利用してスムーズな重心の移動ができる。すなわち切れるターンは外力を利用したターンとなる。
しかしながら、脚のターン内側への傾きが大きいためバランスがとりにくく、また外力を利用するためには、それが作用するだけのスピードを出さなければならないので難しい。切れるターンはどちらかというとフラットなバーン(特にアイスバーン等の固斜面)に向いたターンである。
中間姿勢(中間ポジション)について
スピードコントロールのための2つの要素は、雪面に対する圧力コントロールとターンコントロールであると前に述べた。
脚は、まっすぐ伸ばしている方が、スキーヤーの体重が逃げずに雪面に伝わりやすいので、圧力コントロールには効率が良く、また脚の筋肉に対する負担も軽いのであるが、その反面、脚が自由に動かなくなり、ターンコントロールしにくくなる。
エッジングを重視した切れるターンでは、脚を曲げれば曲げるほど股関節が大きくひねれるようになり、エッジングがしやすくなるので、ターンコントロールがしやすくなるが、その反面、脚を曲げることによって脚がバネのような働きをして、圧力を吸収する可能性があり、また脚の筋肉に対する負担も大きくなる(ずらすターンでは、それほど大きく脚を曲げなくても、比較的自由に脚をひねれるようになる。どの程度曲げれば脚が動きやすくなるかは、実際にスキー板をはいていない状態で、少しずつ脚を曲げて、脚が自由に動くポジションをさがせばよい)。
要するに、脚を伸ばしている時の圧力コントロールの効率性と、脚を曲げた時のターンコントロールの効率性を兼ね備えた状態がベストである。そこで、脚の曲げを最小限にして脚が自由に動くポジション、すなわち脚を伸ばした状態と、脚を大きく曲げた状態の中間のポジションがそれになる。中間ポジションがどこになるかは、次のようにして見つけだせばよい。
まず、ブーツを履いた状態で、平地に足をハの字に開いてまっすぐ立ってみる。その状態からしっかりと踵をつけたまま、ブーツの前傾に合わせて足首を前に曲げる。そうすれば自然にひざも曲がり、脚自体が曲がるはずである。この状態で片方の足のくるぶし及び膝を内側の方に倒し込んでみて、自由に動くようであれば、これがベストポジションとなる。もし自由に動かなければ、さらに少しずつ脚を曲げて、脚が自由にひねれるポジションを探していく。脚が自由に動き、上体及び脚の筋肉への負担がなるべく少ないポジションがその人の中間ポジションとなる。
ターンを行う時、伸身によるターン切換を行うのであれば、ターンしている間は中間姿勢をとり、切換の時に伸び上がって、また曲げてそのポジションに戻すことになる。
屈身によるターン切換では、やはりターン時に中間姿勢をとり、切換の時にそれよりもさらに脚を曲げて上体の前傾を大きくし、切換が終わったら脚を伸ばし、そのポジションに戻すこととなる。
中間姿勢は、ターンの状況によって脚の曲げの度合いが変わってくる。例えば、25度以上の急斜面での小回りターンでは、スキー板を大きく回し込まなければならないので、脚の自由度を大きくするために、パラレルターン及び中斜面小回りターンの時よりも脚の曲げが大きくなる。
また、ブーツの前傾角度によっても変わってくる。例えば、前傾角度の大きいブーツと小さいブーツで腰の位置が同じ高さになるように脚を曲げたとしよう。前傾角度の大きなブーツは足首がそれだけ前に曲がるので、上体をあまり前の方に傾けなくてもバランスがとれるのであるが、前傾角度の小さいブーツでは足首をあまり前に曲げることができないので、その分ひざの関節及び、股関節を曲げて上体の前傾を大きくしなければならず、その分窮屈になる。ゲレンデを滑っている中級スキーヤーを見ていると、フレックスが固く、前傾角度の弱いブーツをはいているため、脚を曲げることができず、そのためターンコントロールがうまくいかない者を見かける時がある。前傾角度が弱いブーツでは、その分上体の前傾を強くすれば脚を曲げることができるのであるが、その状態は結構窮屈で、やりにくい。すなわち、自分の滑りに合ったブーツを選ぶことは重要なことである。
中間姿勢がどのような時に有効かというと、まず、遠心力の作用が弱い状態の時、この時はスキーヤーの内傾は弱くなるので、エッジングも自然と弱くなる。つまりこの状態でエッジングを強くするためには、外傾状態(上体を立てて、脚の傾きを大きくする)を作る必要がある。脚を伸ばした状態で外傾及び外向形を作るのは、体が窮屈で、やりにくい。脚をある程曲げてやると、外傾及び外向形が作りやすくなる。
もう1つは、脚のひねりが多い場合、すなわち小回りターンでは、脚を短い時間で素早くひねらなければならないので、脚が自由に動かせるポジションを取らなければならない。
逆に高速の大回りターンでは、遠心力が大きいため自然に内傾が大きくなり、エッジングも強くなるということと、ターンしている間、スキー板の回旋は少しずつ行われるため、脚のひねりをそれほど必要としないことから、ターンコントロールの要素が少ないので、脚の曲げは、ブーツの前傾に合わせて足首を曲げた時にできる自然な脚の曲げ程度で良くなる。
伸身によるターン切換で伸び上がりをどのように行うか?
脚の曲げ伸ばしによる加重、抜重は、その曲げ伸ばしのスピードが速いほど加重、抜重の力も大きくなり、逆に曲げ伸ばしのスピードを遅くすればするほど加重、抜重の力も弱くなり、最後には発生しなくなる(体重計に乗って脚の曲げ伸ばしのスピードを変えて試してみればわかるが、脚の曲げ伸ばしを速くすると、体重計の針は大きく左右に振れ、ゆっくりやるとあまり振れなくなる)。
伸身のターン切換において脚を伸ばす時には、最初脚を伸ばしている間は脚の筋力によって雪面を押すため、雪面にかかる圧力が増え、脚が止まった時点で抜重が起こる。従って伸び上がりのリズムの違いによって伸身加重と伸身抜重の2つの状態が起こる。
伸身加重
脚を最初曲げた状態から、(いーち)で脚を伸ばして曲げ、(にーい)で脚を伸ばして曲げるぐらいのリズムで脚の曲げ伸ばしの動作を行うと、脚を伸ばす時に雪面に圧力を加えることができる。
ターンは丸い弧を描いてスキー板が回旋している間はスピードコントロールができ、ブレーキングが行われるが、直滑降や斜滑降などスキーが直進するときにはブレーキが働かず、スピードが増す。中、低速のパラレルターンでターン切換の時間を少し長く取る場合、ターン切換時のスキー板が直進する時にスキー板が加速されるので、雪面に圧力を加えるように脚を伸ばすと幾分かスピードをコントロールできる。ターンの切換が終わったら腰を次のターン方向に移動させながら、脚を曲げ次のターン方向にひねっていくのであるが、この時曲げることによる加重という意識はあまりなく、次のターン方向に脚をひねることができるように脚を曲げるような形となる。
伸身抜重
脚を最初曲げた状態から、(いちっ)で脚を伸ばして曲げ、(にっ)で脚を伸ばして曲げるぐらいのリズムで脚の曲げ伸ばしの動作を行うと、脚を伸ばすことによって抜重の状態を作ることができる。これはジャンプする時の動作と同じで、脚を速く伸ばした時、最初脚の伸ばす力によって瞬間的に雪面にかかる圧力が増えるが、すぐにスキー板が雪面から離れ、抜重状態になるからである。また、脚を曲げた時、瞬間的に雪面に圧力が増え、それによってブレーキングの力を強くすることができる。
小回りターンでは、速いリズムで素早くスキー板を回旋させなければならないのであるが、ターン切換時からターン前半にかけてスキー板は回旋しにくい。そこで速いリズムの伸び上がりによって抜重を行い、雪面に圧力がかかっていない状況でスキー板をフォールラインまで回し、その後速いリズムの曲げによって雪面にかかる圧力を増やし、スキー板を回旋しやすくするのと同時に、その圧力によってブレーキをかける。ちなみに脚を曲げていく時は、一番最後にぴたっと脚の動きを止めなければ雪面にかかる瞬間的な圧力増加を発生させることができない。なぜならば、もし脚の動きをゆっくり止めると、脚がバネのような働きをして、上体の落下エネルギーを吸収してしまうからである。
脚をすばやく曲げて止めた瞬間、雪面には瞬間的な圧力の増加が起こり、その反作用によって雪面はスキーヤーの脚を逆向きの力で押し返す。この押し返してくる力に合わせて伸び上がると、雪面の押し返す力とスキーヤーの筋力が反発し合うので、少ない筋力で抜重を行うことができる。そのためには、脚を曲げてぴたっと止めたら、すぐに伸び上がりの動作に入らなければならない。脚を止めた時点でしばらくそのままの状態を持続すると、雪面から返ってくる反動はすぐに消えるので、その後ではスキーヤーの筋力のみで抜重を行わなければならないので、筋力への負担が増すこととなる。
伸び上がりをどのように行うか?
パラレルターンでターンの切換を行う時、その時スキー板は加速されブレーキングが働かない状態となるので、スキーヤーは重心を前の方へ移動し、スキー板のトップを押さえるような動作が必要になる。またこの時、足首の前傾を保つことが重要になる。もしターン切換時に上体が遅れ、足首が伸びた状態になると、脚を曲げて次のターン方向にひねっていく時に足首が伸びたままの状態となり、脚のコントロールができない状態となるからである。上級スキーヤーでも滑っていて後傾になることがあるが、彼等は後傾になっても足首の前傾を保っているので、脚をコントロールすることができる。しかしながら、初級、中級スキーヤーの場合には後傾になった時に、足首も伸びるため、脚のコントロールができなくなり、そのためそこで暴走してしまうといった状況に陥ってしまう。
フラットな斜面でのパラレルターンでは、足首の前傾をしっかりと保った状態で、太股の筋力を使って伸び上がる、もしくは腰を前の方に押し出すような意識で伸び上がってやると、重心を前の方に移動でき、かつ、足首の前傾を保ったままでいられる。もし上体に意識がいき、上体で伸び上がると、上体が後ろに反り返る形となり、その時点で体が後ろに遅れ、足首が伸びることとなる。要はいつの場合にも脚によってコントロールする意識が必要で、脚を意識し、脚の筋力によって伸び上がりを行うと、うまく伸び上がることができる。
屈身のターン切換においても伸身のターン切換と同様で、ターン切換時には重心を前の方に移動することと、足首の前傾を保つことが必要である。
ターン切換時において脚を曲げる時は、腰の位置に足の裏を引き寄せるような意識で曲げていくと足首の前傾を保つことができる。それから、脚の曲げる量に合わせて上体の前傾を強くしていくことによって重心を前の方に移動する。この時上体の前傾を強くすると、どうしても腰が後ろに引けて、足首が伸びやすくなるので、腰が後ろに引けないように意識する必要がある。
Author : Masahiro Kaida
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