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目 次

加重点について

ターンを行う上において、加重点を足の裏のどの位置にするかは重要な要素である。例えば加重点をつま先よりにすると、スキー板のトップ部分が強く押さえられ、テール部分の圧力が小さくなるため、テールがずらしやすくなる。逆に加重点をかかとよりにすると、テールに大きな圧力がかかり、テールはずれにくくなるが、トップが浮くような形となり、トップを次のターン方向にひねりやすくなる。
急斜面におけるカービングターンの加重点はどこにおいたらよいのだろうか?このことに関してはずっと考えているのであるがまだ結論がでない。
カービングターンにおいてブレーキングをかけるためには、スキー板が十分たわむ必要がある。従ってスキー板のトップからテールすべてにおいて圧力が加わっている必要がある。特にスキー板はトップが一番広くできているため、スキー板をたわませ、かつねじらせるためには、トップをしっかりと押さえている必要がある。
力というものは直線的な方が正確に伝わりやすいし、ロスが少ない。スキーヤーの脚の構造を考えてみると、下図のように上体に集中しているスキーヤーの体重は、腰からまっすぐ伸びている足の骨を伝わって、その真下にある足の裏のかかとにはダイレクトに伝わる。それに対し上体の体重をつま先に伝えるためには、真下に向かって伝わってきた力を横方向に換えてつま先まで伝え、それからまた下の方向に変えてスキー板を押すことになる。この時足首がしっかり固定されていないと、足首の柔らかさによって力が吸収されるおそれがある。



スキーブーツの中のレーシングブーツは、フレックスが非常に固く作ってあり、足首がしっかり固定されて足首による力の吸収が起こりにくく作ってある。このブーツを履いて腰の位置を前に押し出すようにして滑ると、上体の体重が前の方に移動して、すねによって固いスキーブーツの前の部分を強く押し、その力によってスキー板のトップの部分を強く押さえることができる。レーシングブーツはそのためにフレックスを固くしてあると最初は考えた。しかし実際に試してみて感じたことであるが、たしかにそうすることによってトップはしっかり押さえられるのであるが、力が正確に伝わっている感じを受けなかった。さらにこの体制を長い時間維持するには少し無理がある。スキーブーツの前傾角度がもっと強ければこの体制を維持しやすいと思われるが、レーシングブーツにおいては前傾角度が一般に弱く、どうしてもかかとよりに体重をかけやすく作ってある。ジャイアントスラロームなどの高速系のターンでは脚をなるべく伸ばして滑った方が筋力に対する負担がかからない。そういった状態では前傾角度があまり強くなくても妥当といえる。しかし、一流のスキーヤーの滑りを何度もビデオでみたが、必ずしも脚を突っ張ったばかりとは限らず、脚を大きく曲げた場合の滑りもある。この状態の時の横方向からみた滑りであるが、どうみてもかかとよりに体重がかかっているようにしか見えない。場合によっては後傾ではないかと思われるような滑りもある。先程も述べたが、スキーヤーのかかとには上体の体重はダイレクトに伝わるので、スキー板のテール部分は押さえやすい。それならばトップ部分はどのようにして押さえたらよいのだろう?


膝によるターンの先行及びひねりによるトップのとらえ

カービングターンは、スキー板を真上から強く押さえるだけでは十分なブレーキングを行うことができない。むしろずらすターンよりもスピードが増すことになる。カービングターンでスピードをコントロールするためには強いエッジングによって板を大きくたわませる必要がある。
人間のスキー板を回旋させる上での脚の横方向の動きは、股関節の動きによって行っている(上級スキーヤーの脚の動きを見ていると、一見膝が左右に動いているように見えるが、膝の関節は上下方向にしか動かず、実際に横方向に動いているのは股関節である)。股関節は2つの動きを行うことができる。1つは足の裏を腰の真下においたまま左右に回旋させるような動きで、ずらすターンに見られる運動である。
もう1つの動きは椅子に座って試してみればわかるが、膝を内側に倒し込んでいくような動きである(または股の筋肉を内側に絞り込んでいくような動き)。この動きをだんだん大きくしていくと足の裏の傾き(エッジの傾き)もだんだん大きくなっていく。そして腰の位置は足の裏からだんだんと離れた位置に移動する。またこの時、足の裏の母子宮部分も強く押さえられる。さらに脚がひねられてくると、その動きに合わせてつま先の部分もターン方向にひねられてくる。この時、横方向へのつま先のひねりによって、スキー板トップのインエッジが雪面を押さえるような状態となる。
以上のことをまとめると次のようになる。

スキー板のテールは、上体の体重をそのまま脚の硬い骨を通してかかとに伝え、その圧力によって押さえる。
スキー板のトップは、膝を内側に倒し込むような形で脚をひねり、そのひねりで母子宮に加重することによってトップに加重すると同時に、ひねる力によってトップのインエッジを雪面に押しつける。さらにこの動きによって強いエッジングを行い、スキー板を大きくたわませてブレーキングを行う。ステンマルクやベルント・グレーバーの脚の動きを見ていると、このような動きをしているように思われる。そしてレーシングブーツのフレックスが堅いのはこの力を逃さないように伝えるためではないかと思われる。


この運動が正しいかどうか今試しているところであるが、なにぶん自分のスキー技術が乏しく、未だこの運動を実行するまでの技量を得ていないのが現状である。

急斜面大回りパラレルターン(カービングターン)は弱いエッジングでもできる。しかし弱いエッジングだとスキー板のたわみが雪面を押さえるのに十分でなく、ずらすターンよりも逆にブレーキングが弱くなってしまい、ターン後半フォールラインに対してほとんど垂直方向までスキー板を向けなければスピードをコントロールできない状態となる。しかしそれではカービングターンを行う意味がない。カービングターンはスキー板をできるだけ浅く回してスピードをコントロールする技法である。そのためには強いエッジングによってスキー板を大きくたわませ、雪面を削り取ること、脚を緊張させて雪面に対する圧力を逃さないようにすることが必要である。スピードが速くなければ遠心力が強く働かないのでエッジングを強くできないし、雪面に対する圧力も増えない。従ってカービングのパラレルターンを行うためには速いスピードを出せるようにしなければならない。
エッジングの角度についてであるが、雪面に対するエッジング角度が45度の時、一番エッジングが立っているように思われるが、スキー板の中央部分が45度の時、スキー板のトップ部分はねじれが生じるため、45度よりも小さな角度となる。従って45度よりも大きな角度が必要だと思われる。斜面がとても固くがちがちでちょっとでも気を抜くと滑っていくような斜面でも、スキー板を真横に向けて立ったままエッジの傾きを強くしていくと、あるところでエッジが雪面にくいついてまったくずれないような感じのするポイントがある。この臨界点みたいなものを越えた角度を作った時にずれが少なくて、しかもスピードコントロールができるカービングターンができるのではないかと思われる。一流のスキー選手の滑りを見てみると、ジャイアントスラロームでは雪面に対し30度以下のエッジの傾きを作って滑っている。急斜面を高速でスピードコントロールして降りていくにはそれくらいのエッジング角度が必要なのかもしれない。この傾きを作り出すのがカービングターンの非常に難しいところだろう。


X脚について

カービングターンは、エッジの傾きを大きくするほどブレーキングも大きくなる。従って効率よくスピードコントロールするためには、脚の傾きを大きくしなければならない。脚は外足と内足を比べた場合、内足よりも外足の方が傾けやすい。しかし、外足の内側に内足があるので、外足を傾けようとしても内足が傾かないと、それが妨げとなって外足を傾けることができない。また脚をターン方向にひねっていく場合でも、内足がスムーズに回旋していかなければ外足は内足によって動きを制限され、うまく回旋させることができなくなる。すなわち内足の動きが悪ければ、外足の動きも殺すことになる。この影響は小回りターンのようにリズムの速いターンになるとより大きくになる。よってカービングターンを行うためには内足を鍛え、大きく傾けること及びスムーズに回旋させることができるように練習しなければならない。
内足は、鍛えても上体の傾きと同じぐらいしか傾けることはできない。もし脚を閉脚にして、外足を内足にぴったりくっつけると、外足は内足と同じ傾きになる。しかし、外足は内足よりも大きく傾けることができるので、その特性を生かした方がより強いエッジングを行うことができる。そこで脚をオープンスタンス(開脚)にして、外足の膝を内足につけるようにX脚にすると、内足よりも外足の方の傾きを大きくすることができるので、閉脚の時よりもエッジングを強くすることができる。


大回りターンと小回りターンの違いについて

大回りのターンと小回りのターンでは、いくつかの異なった要素があるが、力学的に見ると次の点が上げられる。

1)スキーヤーの進行方向による違い

大回りターンの場合は、スキー板は大きな丸いターン弧の上を動いていくような軌跡を描く。この時、スキーヤーの上体の作る軌跡もスキー板と同様丸いターン弧となる。スキーヤーにかかる重力はスキー板のエッジによって2つに分けられ、その内の1つはターン前半は遠心力と逆向き、後半は遠心力と同じ向きに働く。従って雪面にかかる圧力はターン前半は(遠心力−重力成分1)、ターン後半は(遠心力+重力成分1)となる。重力のもう1つの成分はスキー板と同じ方向に働き、スキー板を滑らせる力となる。そして重力成分2の力によってスピードが増すと、スキー板が前に滑ろうとする運動エネルギーも増す。ターン切換時は、遠心力とこの運動エネルギーをうまく利用し重心の移動を行う。
小回りターンの場合は、スキー板自体は丸いターン弧を描くが、スキーヤー自身を見た軌跡は丸い弧ではなく、フォールライン方向に落下していく動きになる。小回りターンでは遠心力の働く力は弱い。スキーヤーにはフォールライン方向に向かって重力が働いており、この力に引っ張られてフォールライン方向に落下していくと運動エネルギーが発生する。この力はスピードが増すほど大きくなる。この運動エネルギーは、ターン後半にスキー板のエッジによって雪面にかかる圧力と雪面をスキー板の向いている方向に滑らせる力の2つに分けられる。この力を利用してスキーヤーはブレーキングとターン切換を行う。
大回りの場合はスキーヤー自体の動きが丸いターン弧を描くので大きな遠心力が発生し、重力、遠心力が外力の要素として働き、これを利用したターンになる。
小回りの場合は、スキーヤー自体の動きはフォールライン方向に向かう直線的な動きに近くなる。従って遠心力の力が弱く、重力のみが外力の要素となり、これを利用したターンとなる。

2)スキー板の向きと上体の向きとの関係からくる違い

スキーヤーが瞬間的に上半身を右方向にひねったとしよう。この時、スキーヤーの下半身は、上半身をひねった時に使用した力と同じ大きさの力で逆向き(左方向)にひねられる(作用、反作用の関係)。するとスキーヤーの上半身と下半身には大きなねじれができるので、このねじれが元に戻ろうとして今度はスキーヤーの上半身は左側に、下半身は右側へ回旋を始める。この時スキーヤーが筋力を少し回旋する方向に加えてやると、また上半身と下半身の間に強いねじれができ、また元に戻ろうとして回旋を始めるという具合に、上半身と下半身の回旋を継続させることができる(プロペラターン)。
この運動を行う際には、止まっている状態から最初にスキー板を回旋させる時に大きな力が必要になるが、ターンが継続し始めると、それを続けるのに必要な筋力は少しでよい(例えば糸に五円玉をつるし、これをねじまいて手を離したとしよう。五円玉はぐるぐると回り出すとねじっていた糸が元に戻っても回り続け、そして止まると今度は逆向きに回り出すといった運動を外から力を加えなくとも何回も続ける)。この運動は小回りターンで使用すると有効である。小回りターンでは速いリズムでスキー板の回旋を繰り返さなければならない。小回りターンではターン前半にはスキー板の回旋力はなく、ターン後半でもスキー板の回旋力ではすばやくは回らない。従ってスキーヤーの脚力によってスキー板を回旋させることになる。小回りターンではスキーヤーの上体の向きは常にフォールラインを向いている。これによってターン後半には上体と下半身の間に強い逆ひねりが生じ、この逆ひねりが元に戻ろうとする力によってターン前半にスムーズにスキー板を回旋させることができる。ターン後半には強い外向形ができ、スキーヤーにとって無理な体勢となるが、瞬間的な状態なのでそれほど大きな負担は起こらない。

上に述べた運動は、途中で上半身と下半身の回旋が止まり、そのねじれによって逆向きの回旋が起こり、それが続く運動であったが、上半身の回旋が途中で止まらず、そのまま右方向に回旋を続けるとこの運動は違ったものとなってくる。
上半身を右方向に回旋し続けると、最初下半身は左方向に回旋するが、一度止まると今度は右方向に回旋し始め、上半身に追従してそのまま右方向に回旋を続ける。これは大回りのパラレルターンに当てはまる。
大回りのパラレルターンでは、ターンの回旋がゆっくり行われるため、ターン始動時の作用、反作用の力は弱くて上半身と下半身の逆ひねりはおこりにくく、スキー板と上体は同じ向きに回旋していく。よって上体はスキー板と同じ方向を向いて滑った方がよい。そうすることによって上半身と下半身が無理のない自然な状態となり、脚の傾き及びひねりを行いやすくなる。ターン後半に外向形を強く作りすぎると、無理な逆ひねりによって脚の動きが固定され、自由に動かなくなる。その結果、脚によるターンコントロールはしにくくなり、またエッジングが弱くなるためスキー板はずれやすくなる。中級者に見かけるパターンだが、ターン後半に上体の向きが完全にフォールライン方向に向いているため、スキー板が回旋しようとする力が逆ひねりの力によって阻害され、スキー板の回旋が途中で止まって暴走したり、逆ひねりを強く作りすぎているために、脚の動きが固定されてエッジングができない状態となり、ターン後半が完全な横滑り状態となっているものを見かける。


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