固斜面(アイスバーン)におけるターンコントロール


固い斜面の特徴

a)雪面抵抗が非常に小さいため、スピードがでやすい。
マ強いブレーキングが必要
スキー板はずれやすいのでターン切換時からターン前半にかけてもスキー板は回旋しやすく、ターンしやすい。

b)雪面が固いため、雪面に加えた圧力が雪によって吸収されない。
マ板がたわみやすい。
雪面に加えた圧力と同等の力によってスキーヤーの脚は雪面から押し返される。(例えば硬い壁を手で押してみると、壁から同じ力で押し返される感じを受ける。これが柔らかいマットを押した場合は、力が吸収されるので、押し返されない。作用、反作用の関係)
つまり雪面から押し返される力が強く働く状況では屈身によるターン切換が行いやすいということである。

以上のことを考慮に入れて、固斜面の場合のターンコントロールを考えてみる。


固斜面における中、急斜面での高速大回りパラレルターン

カービングターン(ずれの少ないターン)は、ずれの多いターンよりもターん効率がよい。これは何故かというと、ずれの少ないターンはスキーヤーにかかる外力(重力、遠心力、スピードの増加によって増える運動エネルギー)を逃さないようにして、それを雪面に対する圧力に換えることができるからである。ずれの多いターンでは遠心力のかかる方向に板がずれるため、力が逃げることとなる。
スピードコントロールの2つの要素は、雪面に対する圧力コントロールとターン弧のコントロールである。この内雪面に対する圧力を増やすことができればスキー板の回旋する量を減らすことができ、ターンを効率よくすることができる。
高速の大回りパラレルターンではスキーヤーには大きな遠心力がかかる。この遠心力はスキー板をたわませる方向に働くので、雪面にかかる圧力も増える。またこの遠心力は次のターン方向と同じ向きに働いているので、これを利用すればターン切換時にスムーズな重心の移動を行うことができる。



ターン前半においては重力はスキー板をたわませる方向と逆向きに働くため、スキー板はたわみにくくなるが、高速のパラレルターンでは遠心力が強く働くためその力を打ち消し、かつスキー板をたわませる力となる。従ってターン前半から後半にかけてスキー板はたわみ、板のカービングにあった丸い弧を描くことができる(ターン後半では《遠心力+重力》が板をたわませる力となるので、《遠心力−重力》が板をたわませる力として働くターン前半よりもブレーキングの力は強くなる)。
図を見ればわかるとおり、重力の分力A1がスキーヤーの脚を通して伝わり、A1’として雪面を押す圧力となる。この力は遠心力が大きくなればなるほど(スピードが増すと)大きくなる。すなわち雪面に対する圧力は増大するので、スキーヤーの脚には自分の体重よりも大きな力が働くこととなる。すなわちこの状態で脚を曲げていると足の筋肉に対する負担が大きくなる。
より大きな体重を脚によって支える上では、足を曲げるよりも伸ばした方が筋肉に対する負担が小さくなる。さらに脚を曲げていてバネのように上下すると力を吸収するので、雪面に対する圧力がうまく伝わらなくなる。脚は伸ばした方が力は伝わりやすい。大回りのパラレルターンでは、スキー板の回旋は、板のカービングに合わせて少しずつ動いていく。従って脚のひねりによる回旋(ターンコントロール)はあまり必要ない。すなわち脚をあまり曲げる必要はない。遠心力による体重の増加に耐え、かつ力を逃さないように雪面に伝えるためには、脚を突っ張るようにして伸ばしている方がよい。ただし脚のひねりによる回旋はあまり必要ないと言ってもやはり脚によるターンコントロールは必要である。よって足首の前傾とそれに見合った脚の若干の曲げはやはり必要になる。
急斜面では強いブレーキングが必要である。従ってターン弧は緩斜面より深回りとなる。しかしながらターン弧はなるべく浅回りにしたほうがターン効率は良くなる。すなわち雪面に対する圧力を増やすようにした方がよい。そのためには脚を突っ張るようにして筋肉を緊張させ、遠心力及び重力を逃さないように雪面に伝えるようにしたほうがよい。それからエッジングを強くする。スキー板はエッジングを強くすればするほどたわみ、スキー板のトップはねじれるので、スキー板が元の形に戻ろうとする力で雪面を強く押さえる。またエッジの鋭い刃によって雪面を削り取る雪の量が増えるので、ブレーキングの力は増す(例えばカッターナイフで鉛筆を削るときには、刃を立てたほうが多く削れるように)。
エッジングを弱くしてもずれないターンはできるが、板のたわみが弱いため十分なブレーキングの力が得られず、逆にずらすターンよりもスピードがでることとなる。なるべく浅回りをして高速のターンを行うためには最低でも45度以上のエッジング角度が必要だと思われる。
もう1つ、急斜面ではブレーキングを強くするために、スキー板のトップを強く押さえる意識が必要である。スキー板はトップとテールが広くて、真ん中が狭くなっている。この構造によってスキー板は特にターン後半に、重力の影響を受けてトップ部分に一番強い圧力がかかり、それによってスキー板は回旋する。その時スキー板のテールは雪面を削り取り、ブレーキがかかる。よって十分にトップが押さえられないとその力は弱くなり、そのためターン弧が深くなってしまう。特にターン切換時からターン前半にかけてはスピードが加速される部分となる。従ってトップをしっかり押さえてブレーキングを増すようにより意識しなければならないが、前にも述べたとおり、この部分ではターン後半部分よりも加重点が後ろになる。よってこの部分では重心を前方に移動する必要がある。
ターンを行う上で一番効率が悪いのはターン切換部分である。この部分ではスキーヤーは重心の移動を行わなければならないということと、今まで回旋してきたスキー板の回転方向と全く逆向きにスキー板を回旋し直さなければならないからである。しかしながら高速の大回りパラレルターンでは、この部分は比較的行いやすい。まずスキー板の回旋方向を今までと逆向きに回旋させることに関しては、雪面抵抗が非常に小さいため、板はずれやすく、また大回りではほんの少しずつしかスキー板は回旋しないため、比較的簡単にスキー板の回旋を始動しやすい。
重心の移動に関してである。ターンしている間、スキーヤーには強い遠心力Bが働いているが、これに対しスキーヤーはターン内側へ体を傾けることによってこの遠心力Bと釣り合う大きさの向進力A2を発生させ、バランスを取っている。ターン切換時、スキーヤーがほんのちょっと体の傾きをゆるめ向進力A2の力を弱めると、たちどころに遠心力Bの力を受けてスキーヤーの体は次のターン方向に投げ出されることとなる。これによってスキーヤーはそれほど大きな力を必要とせず、重心の移動を行うことができる。この時スキーヤーが意識して重心の移動を行うと、さらにスムーズに重心の移動を行うことができる。この重心の移動はずれの少ないカービングターンだからこそ、その遠心力を利用して効率よく重心の移動を行うことができる。もしずれの多いターンだったら、スキー板は遠心力が働く方向と同じ方向にずれていく。従ってスキーヤーが重心の移動を行うためには逃げていくスキー板を追い越すように重心の移動を行うことになるので、効率が悪くなる。
前述したように、ターン切換時ではスキー板は直進するためブレーキングが行われず、この部分ではスキー板は加速されることとなる。従ってスキーヤーの状態は見かけ上後ろに引っ張られるような力が働くこととなるので、この時スキー板のトップを押さえるために、重心を前方に移動する必要がある。
高速のターンでは雪面から押し返される力Cは大きな力である。雪面が押し返す力の大きい状況では、脚を上の方に引き上げる運動はやりやすいので、屈身によるターン切換が有効である。すなわち高速ターンでは屈身によるターン切換を行うことによって上体を雪面から一定の高さに保つことができ、安定した切換を行うことができる。
ターンの切換においては交互操作と同時操作の2つの切換方法がある。これはターン時において内足が外足よりも一歩前にでることに起因する(足の前後差)。
人間の足はその構造上、高く上げたほうの足が低いほうの足よりも前にでるようになっている。従って山側の位置にある足(内足)は谷側の足(外足)よりも前にでる必要がある。



ターン切換時、今まで山側にあったスキー板Y1よりも今まで谷側にあったスキー板X1を前の方に出す動作を行わなければならない。もしそのままにしておくと、次に内足になる足X2がじゃまになって、外足Y2は次のターン方向へ傾けることができなくなり、ターンの切換がうまくいかないこととなる。この切換時の操作の方法として、交互操作同時操作がある。

交互操作



ターン後半から切換に入る直前の状態(A)では、スキーヤーは両スキーのインエッジに乗っている。この状態からターン切換に入るとき、スキーヤーは内足のインエッジのみに乗ってスキー板をC方向に走らせ、外足は持ち上げ、雪面から浮かした状態にする(B)。そうするとスキー板はC方向に、スキーヤーの上体は遠心力の影響を受けてX方向に移動するため、スムーズな重心の移動(腰の位置の移動)が行われる(BモD)。この時、雪面から浮かした外足は内足のエッジ切換のじゃまにならないように一歩前に出す。C点ではスキー板は一度フラットな状態になる。この状態ではブレーキングは働かなくて加速されるので、この時間はなるべく短くし、スムーズに次のD点に移行する方がよい。(CモD)では重心の移動及びエッジの切換が行われ、今まで内足だった足は外足に、外足だった足は内足に変わり、次のターン方向に向かって板は回旋する。
交互操作の利点は滑走している間、常に雪面をとらえていることができるということにある。そのため常にターンをコントロールできる状態にある。またA点で内足を一歩外側に踏み出し、シェーレン状に開き出せば、ターンの軌道を一歩外側へ切り替えることができる(ステップターン)。

同時操作



ターン後半から切換に入る直前の状態(F)では、スキーヤーは両スキーのインエッジに乗っている。この状態からほんの少し重心の移動(腰の位置の移動)を次のターン方向に向かって行うと、今まで保たれていたバランスがいっきに崩れ、スキーヤーの上体は遠心力の影響を受けて、X方向に移動し、すみやかに重心の移動を行うことができる。この時(C)、脚の屈身運動または伸身運動によってスキー板をほんの少し雪面から浮かし、空中でエッジの切換及びスキー板の前後差の切換を行う(GモH)。切り替えが終わったらスキー板の両エッジで再度雪面をとらえ、次のターンの始動を行う(高速ターンでは、強い遠心力の反作用によって雪面から大きな押し返される力を脚に受けるので、屈身運動の方が効率がよい)。
同時操作の利点は、ターンの切換が交互操作よりも素早くできる点にある(図を比べてみればわかるが、交互操作で5ステップかかるのを同時操作では3ステップで行っている)。
それともう1つ、スキー板が空中に浮いている状態(GモH)において、エッジの切り替えと同時にスキー板の先端をフォールライン方向に少し先落とししてやると、ターン弧の軌道を換えることができる。カービングターンはスキー板のカービングの大きさによってターン弧の大きさが決まるので、スキーヤーがターンしている間、すべてのターンはほぼ一定の大きさのターンになってしまう。スキー板を先落としすることによってカービングターンより小さなターン弧で滑るのと同じような状態を作ることができる。それにスキー板を先落とししてやると、次のターンの始動がやりやすくなる。
強いて欠点を上げるならばスキー板が雪面から離れている間はスピードコントロールできない状態にある。従って空中に浮かす量はなるべく少なくし、この時間をなるべく短くした方がよい。


固斜面における緩斜面での高速大回りパラレルターン

根本的な操作は中、急斜面高速大回りパラレルターンと同じである。ターン弧は急斜面パラレルターンよりも浅回りとなり、ターンはしやすくなる。緩斜面でのターンではスキー板がフォールライン方向に引っ張られる力が弱くなり、その分スキー板が雪面を押す圧力が増える。従ってブレーキがかかりやすいので、あまりスキー板のトップを押さえすぎるとスピードが落ちすぎてしまう。従って加重点を急斜面時よりもかかとよりにしたほうがよい。
緩斜面パラレルターンでは、急斜面パラレルターンに比べてスピードが遅いので遠心力が弱くなる。従ってターン切換時の重心の移動をスキーヤーは意識して行う必要がある。
交互操作では上図(B)で内足のインエッジに乗った時、伸身の動作を使い、内足で伸び上がると、腰の位置が次のターン方向に押され、重心の移動がスムーズに行われる。
同時操作では、スキーヤーは腰の位置を意識して次のターン方向(スキー板の進行方向に対して垂直方向)に移動した方がスムーズなターン切換ができる。
遠心力が弱い状態ではスキーヤーの内傾も弱くなる。この状態でエッジングを強くしてスキー板がずれにくくするためには、上体の外傾を意識して、脚の内傾がなるべく大きくなるようにした方がよい。それともう一つ、ターン時に脚の曲げを中間ポジションまで曲げてやると、脚の傾きを作りやすくなり、エッジングを強くできる。

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