ターンしている間、スキーヤーの上体はどのような力を受けるのか?

スキーヤーの体を脚と上体の2つに分けると、上体は脚よりも慣性の法則の影響を受けやすい。


慣性の法則について

慣性の法則とは、他から力を受けない限り、止まっているものはいつまでも止まり続け、一定の速度で動いているものは、いつまでもその動きを続けるというものである。
慣性の法則は、質量の大きいものほど,その影響を大きく受ける。また、力はそれが作用している物体(スキー板)から遠いものほど、その力が伝わるのが遅くなる。
上体は雪面から離れた距離にあるため、スキー板が加速または減速された時、その力はまず脚に伝わり、それから上体に伝達されるので、スキー板の動きよりもほんの少し遅れる。また、スキーヤーの体重の大半は上体に集中しているので、慣性の法則の影響を脚よりも受けやすい。



スキーヤーが最初止まっている状態から斜面を滑りだそうとする時、まずスキー板が滑り出し、それについていくようにスキーヤーの足の裏が動きだし、スキー板に引っ張られて脚が動き出し、脚に引っ張られて上体が動き出すというように、運動は下から上に向かって順次伝わっていく。スキーヤーの上体はスキー板から離れており、また、体重が重いため、慣性の法則の影響を受けやすい。従って、一度動き出すと一定の速度で雪面から一定の高さを保って進もうとする。
大回りのパラレルターンでは、ターン後半ではブレーキが働くため、スキー板は減速される。しかしその運動が上体に伝わるには少し時間がかかるため、上体はそのままのスピードで移動し、スキー板よりも前の方に移動するような形になる(たとえば電車に乗って立っている時、電車がブレーキを踏むと体は前に倒れそうになるように)。
逆にターンの切換では、ブレーキを踏んでいる状態から、ブレーキをはずした状態になる。スキー板は減速状態からいきなり加速状態になるが、上体はそのままのスピードで進もうとするのでスキー板よりも後ろに遅れる形となる(たとえば電車に乗って立っている時に、電車が発車しそうになると体は後ろに倒れそうになるように)。従って意識して重心を前に移動することが必要になる。
ターン前半もスキー板は加速状態にあり、上体は遅れがちになる。よって重心を前に持ってくることが必要になる。


慣性の法則から見た前後のポジションについて

日常生活の中では、人は道路などの坂道に立つ時には、図1のように平地にまっすぐ立つように立つ。この時、スキーヤーには体軸と同じ方向に重力がかかるので、体軸によってスキーヤーの上体にかかる重力が分解されるということは起こらず、そのままスキーヤーのすべての体重が足の裏にかかることになる。この時重力は、斜面の傾きによって二つの力A1及びA2に分かれる。日常生活における坂道では、滑っていこうとする力A1に対して、それと釣り合う逆向きの抵抗(摩擦力)が働いているので、そこに立ち止まっていることができる。しかしこれが雪面にスキー板を履いて立つ場合では状況が違ってくる。
今スキーヤーがスキー板を履いて、フォールラインに向かって立ったとしよう。雪面では抵抗(摩擦力)の力はほとんど働かないので、スキーはA1の力に引っ張られて、加速されていく。この力A1は下から上のほうに伝わっていくので、上体への伝達は遅れる。 雪面では抵抗の力はほとんど働かないため、スキー板はA1の力によってフォールラインに向かって滑っていこうとする。一方スキーヤーの上体は慣性の法則の影響を受けるので、そこにとどまろうとする。



このような時、スキーヤーにはスキー板が滑り出すと言った感じよりも、自分の上体が後ろに引っ張られたような感じを受ける。そこで、仮にスキー板が止まっており、逆に上体が後ろの方に引っ張られて動くと仮定しよう。
図1を上体を中心に見た場合、スキーヤーの上体には図2のように見かけ上スキーヤーの上体を後ろに引っ張ろうとする力(A1と逆向きで同じ大きさの力)が働くことになる。従ってスキーヤーの上体には重力と、見かけ上の後ろに引く力の合力(A+C)が働き、その力によって斜め後方に引っ張られるので、後ろに倒れてしまう。よってスキーヤーが倒れないようにするためには、合力(A+C)の矢印の向きがスキーヤーの足の裏に向くように立たなければならない。すなわち雪面ではスキーヤーは図3のように斜面に対して垂直に立たなければならない





それでは、斜面に垂直に立った時に、スキーヤーにはどのような力が働くのかをもっとわかりやすくするために、スキーヤーの体を、同じ質量の三つのパーツに分けて考えてみる。


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