日本のスキーゲレンデにカービングターンは必要か?

1994年ぐらいまでは、日本のスキー技術は競技スキーと基礎スキーの2つに分かれていた。その当時、オーストリアスキー教程では競技スキーに近いスキーとなっていたので、何故日本のスキーにだけ基礎スキーなるものが存在するのか疑問に思っていた。基礎スキーでは、ずらすターンが基本となっており、スキーブーツはフレックスが柔らかく、足首が曲げやすいもの、スキー板も比較的柔らかいものであった。フレックスが柔らかいブーツは、足首を前に曲げた時につま先に加重点が移り、スキー板のテールがずらしやすくなる。柔らかいスキー板はこぶ斜面や柔らかい雪を滑る時に向いている。ターンの主流は時代とともに、屈身の切換によるずれるターンから伸身の切換によるずれるターンに移り、現在に至ってはずれの少ない切れるターンに移っている。このターン技術の推移は、その当時のゲレンデ状況の変化と照らし合わせると納得がいく。ゲレンデがピステンを使って整備される以前の状況では、ゲレンデは深雪またはこぶ斜面の状態が多かった。従って屈身によるターン切換が有効である。オーストリアスキーの古いビデオを見てみると、やはりゲレンデの柔らかい雪の状況で、デモンストレーターは屈身によるターン切換を行っていた。
ゲレンデがピステンで整備されるようになり、整地化されるようになると、低速のずらすターンでは有効な伸身のターンに移行したと思われる。オーストリアスキーメソッドでは、パラレルターンのターン弧は大回りと小回りの2つだけだと定義している。カービンングターンのターン弧に照らし合わせて考えると、やはり大回りと小回りの2つのターン弧になってしまう。しかし日本の基礎スキーには中回りのターン弧が存在し、パラレルターンに関しては大回りよりもむしろ中回りのターンが主流となっていた。これも日本のゲレンデ事情を考えると合っている。日本のゲレンデは縦にも横にも狭く、その中にたくさんのスキーヤーがひしめき合っているので、この状態で大回りのラインを取るのは人にぶつかったり、また横の木にぶつかる可能性があり、危険である。安全性の上で低速でターン弧の小さい中回りの方が適している。この当時のスキー指導要領におけるパラレルターンの技法では、伸身の動作による加重、抜重とターン後半の強い外向形が強調されている。これも中回りのパラレルターンに合わせて考えると、当てはまる。急斜面での低速の小回り及び中回りターンでは、ターン後半のスキー板の回旋量が多くなる。従ってターン切換からターン前半にかけてもそれだけ多くスキー板を回旋させなければならないが、スキー板はターン切換から前半にかけて回旋しにくい。そこで脚を曲げて強い外向形を作っておく。すると上体と脚の間に逆ひねりによるねじれが生まれるので、ターン切換の時に伸び上がると、このねじれがもとにもどろうとする力によって、スキー板はフォールライン方向に先落としされることとなる。この時、スキー板に圧力が働いていない方がスキー板は回旋しやすいので、伸び上がりの時に抜重する。スキー板がフォールラインを向くとそこから先はスキー板は回旋する力を持つので、脚を曲げて加重して、ターン後半の回旋を行う。中回りの1つのターン弧に要する時間はそれほど長くはないので、伸身の動作による加重、抜重が効力を及ぼす。
カービングターンにあったゲレンデ状況は、スキー板がたわみやすいように固斜面で平らな斜面であること、基本的には大回りになるので広いゲレンデ面積を持つことの2点である。北欧のスキー場はその緯度は日本の北海道あたりと同じであり、また高度も3000m近くあるため、気温が低く、圧雪された斜面はスケートリンクのようである。また斜面が広いので同じ所を通るスキーヤーは少なく、雪面は平らである。斜面の滑走距離が非常に長いので、小さなターン弧で滑ったのでは筋力の負担が大きく、最後まで滑っていくことができない。従って筋力の負担を減らすために大回りのターンの方が合っている。カービングターンに適した斜面と言うよりもカービングターンが必要であると言った方がよいだろう。
日本のスキー場は雪質が柔らかく、重い。日本のスキー場の中でも志賀高原の雪は軽くて滑りやすい雪であるが、オーストリアで滑った後で志賀高原で滑ると、その雪でさえも重く感じた。1つの斜面の横幅が狭く、また距離も短いため、大回りのターン弧が得られにくい。さらにその狭い面積に多くの人間が滑っているので、大回りをするとぶつかるおそれがあり、危険である。また、同じ所をたくさんの人が滑っているので、一見平らな斜面に見えても小さなこぶがあり、完全にフラットな斜面ではない。以上のことから日本のスキーゲレンデは必ずしもカービングターンは必要がなく、むしろずらすターンの方がゲレンデ状況に合っていると思われる。
それではカービングターンはめざす必要はないのか。私の思いとしては、やはりカービングターンはめざすべきだと思う。なぜならば、カービングターンはずらすターンよりもその切れた時の感覚がはるかに快感であり、楽しいからである。


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